木工所のオヤジに怒られた!酒熟成キット#酒ハック開発秘話①
Jan 15, 2024
酒ハックプロジェクトは静岡県浜松市を拠点に、地元の天竜地域産の木材でお酒をもっと美味しくする製品を開発たい!という思いからスタートしました。
今となってはクラウドファンディングで3500万円以上の支援を集め、川勝平太静岡県知事からも「逆転の発想」と絶賛していただいた「酒熟成キット#酒ハック」ですが、開発を始めた頃は今とは全く異なる形をしていました。
酒ハックプロジェクトは2023年1月から「酒熟成ボトル」という商品名で、日本酒の4合瓶サイズの木製ボトルの開発に着手しました。
祝いの席で飲まれる鏡開きに使われる杉樽や、ヒノキで出来た酒桝から着想を得て、誰でも手軽に日本酒を、まるで樽酒の様に風味付けして楽しむことが出来るボトルがコンセプトでした。
今でもコンセプトは間違っていないと思います。
製法はシンプルで、四角く製材されたスギやヒノキの内側と外側をボトル状に削り出すだけです。
しかし、製法がシンプルなだけに高度な加工技術が求められます。
乱暴に言えば木を削り出してガラス瓶と同じ形の物を作るチャレンジです。
腕が良く新しい商品作りに積極的な木工所や職人さんが全く見つかりませんでした。
設備の都合や技術上の理由で加工が出来なかったり、新しい事を始めるリスクを取りたくないなどの理由で、何社にも断られる日々が続きました。
それでも根気よく探し、中部地方では恐らく一番の技術力を持つ木工会社と、天竜地域で長年材木商を営んでいる会社が協力してくれる事となりました。
詳しくは書けませんが、特殊な加工法を開発することで、何とか試作品を完成させることが出来ました。
試作品のボトルで飲む日本酒はスギやヒノキの爽やかな香りをまとい、とても美味しかったです。
ところが試作品にはいくつかの欠点があり、市販化出来ませんでした。
その欠点とは…
①材料が高価
②加工が難しい
③それでも3日ほど入れっぱなしにするとお酒が漏れてくる
④木工所のオヤジに怒られた(笑)
の4つです。
①材料が高価
当たり前の話です。
材料のスギやヒノキに、節穴や割れがあるとお酒が漏れてしまいます。
そのため、無節や上小節と呼ばれる節の無い最高等級の木材を材料にしなければなりませんでした。
節の無い材を育てるために、節の元となる枝を手作業で木に登り、一本づつ手作業で切り落として育てた手のかかった材料です。
昔から高級材として寺社仏閣の人目に付く所などに使用され、節が無いため風雪によく耐え、数百年使用されることを期待されているものです。
高価なので個人宅で使えるのは床の間や玄関など、ごくわずかです。
建築に使う場合は表面だけ節が見えなければ良いですが、ボトルにする場合、四角く製材された4面すべてに節があってはいけません。
そんな材料はなかなか見つかりません。
「何十本も潰して、やっと1本確保したんだよ」という材木商の担当さんの言葉に脳天を殴られるような衝撃を覚えました。
②加工が難しい
節穴や割れのほとんど無い材料を使用しても、木材の内側を正確にくり抜くのは技術的に難易度が高かったです。
何しろ天然の材料ですから、削っているうちに埋もれていた小さな節が出てくる物もあります。
加工中のストレスで小さなヒビが入り、泣きながら廃棄にした物などもあります。
無駄にしてしまった材料が、加工コストの増加につながりました。
③それでも3日ほど入れっぱなしにするとお酒が漏れてくる
食器に使われる、味や香りに全く影響を与えないクリア塗装があります。
それを使えば木へのお酒の染み込みを防げますが、塗装があると木の爽やかな香りがお酒に移りません。
無塗装の状態でお酒や水を入れて耐久性を確認した所、節や割れが全く無いのにどうしても木の繊維を伝って、お酒の水分でボトルの表面がしっとりと湿ってしまいます。
使用後のボトルを水洗いしても、内側まで完全に乾かすのは難しく、衛生上もこれでは一般の家庭でボトルを使うのは難しいと思いました。
木を水分で痛めつけるような使い方なので、耐久性にも難がありました。
④木工所のオヤジに怒られた
試作品での耐久試験の結果を木工所と何度もやり取りする中で、物静かで温厚な木工会社の専務さんから、ついに、恐れていた事を言われてしまいました。
「本来なら寺社仏閣に使われて、数百年使われるような材料を使い潰すようなやり方はよくないよ」と穏やかな口調で諭すように伝えられました。
正直キツかったです。
内心では「この商品はどこか間違っているんじゃないか」と思っていました。
そこを言い当てられたように思いました。
せっかくの高級な材料を、丁寧な加工で綺麗に仕上げているのに、数回の使用で木が水分を吸って変色したりしては、お客様もきっと納得してくれません。
酒ハックプロジェクトは常にソーシャルグッドでありたいと考えています。
関わる人全員を幸せにするような商品でないと世の中に出したくありません。
ものづくりをする人としてのあり方から、どうあるべきなのかを考えて考えて、いよいよ頭が煮詰まって、もうどうしようもなくなりました。