スコッチ業界の常識を覆したインナースティーブ技術。なぜ販売停止に?
スコッチウイスキー業界を驚かせた熟成方法「インナースティーブ技術」。
伝統的なスコッチの熟成手法に真っ向から挑み、業界の常識を覆したこの技術は、注目を集める一方で、スコッチ協会によって販売が差し止められる事態にもなりました。
なぜスコッチの世界では、インナースティーブが認められなかったのか?
この記事では、その背景と、関連する事例について詳しく紹介します。
1.スコッチ業界の常識を覆したインナースティーブとは
インナースティーブとは、ウイスキーの樽熟成において、フレンチオーク製の板(ステイブ)を樽内に沈めて追加熟成する手法のことです。
通常、ウイスキーは大麦やトウモロコシなどの穀物から作られた原酒を、内側を焦がした木樽で3年以上熟成させます。
インナースティーブはこの伝統的なプロセスにさらに一手間加える手法で、香りと味の層をより複雑に、豊かにする効果があります。
2.販売を差し止められた初代スパイスツリー
2005年にコンパスボックス社が発売した「スパイスツリー」は、この技術を応用した画期的なウイスキーでした。
ワイン製造でよく使われる「オーク材を樽内に沈めて香り付けを強める技法」をウイスキーに転用。ところがこの製法がスコッチの定義に抵触するとされ、スコッチウイスキー協会(SWA)から販売禁止の通達が出されました。
定義上「樽の中に加えられるのは原酒のみ」であり、木材の追加は認められないという判断でした。
同社は不服として協会に公開質問状を送りましたが、販売停止処分が撤回されることはありませんでした。
その後コンパスボックス社は試行錯誤の末、天板をフレンチオークに変更した「合法的な樽」で香りづけを行う新製法を確立。
2009年、「2代目スパイスツリー」として再登場し、現在もファンに愛されています。
3.メーカーズマーク46はインナースティーブで作られている
赤い封蝋で有名なアメリカのバーボン「メーカーズマーク」。その上位モデル「メーカーズマーク46」は、インナースティーブ技術で作られています。
6年以上熟成された原酒に、焦がしたフレンチオーク板を10枚沈めてさらなる熟成を施すことで、香りと風味を強化。
その結果、バニラやメープルの香りが加わり、まろやかさと重厚感が両立した味わいに仕上がります。
ちなみに「46」という名前は、焦がし加減の指定番号(No.46)に由来しています。
4.ジャパニーズウイスキーではインナースティーブ技術が禁止されていない
2021年に日本洋酒酒造組合によって定義された「ジャパニーズウイスキー」では、インナースティーブ技術の使用は明示的に禁止されていません。
定義では、発酵・蒸留・熟成・瓶詰めを日本国内で行い、700リットル以下の木樽で3年以上熟成し、アルコール度数が40%以上であることが条件。
その中に「ステイブの使用」に関する禁止項目はなく、表記義務もありません。つまり、メーカーが使っていても公開する必要はないということです。
5.酒ハックもインナースティーブの応用でお酒を美味しく熟成できる
「#酒ハック」は、インナースティーブ技術を応用して、ご自宅でお酒の味を“進化”させることができる熟成キットです。
使い方は簡単。専用の透明ボトルに、国産銘木(ミズナラ、ヒノキ、カエデなど)をセットし、お好みのお酒を注ぐだけ。半日〜1日で味や香りに変化が表れます。
焼酎・泡盛・日本酒などにも応用でき、クラウドファンディングで3,500万円以上を集めた注目のプロダクト。
高級な樽熟成酒に手が届かない…でも自分の手で“熟成体験”をしてみたい。そんな方におすすめです。
「ちょっとやってみたい」が、「もう手放せない」になるかもしれません。
あなただけの熟成酒、育ててみませんか?